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不妊によるカップルの温度差を乗り越えよう (10)「彼女はどうしていつまでも泣いてるんだろう?」

2021年12月3日 | admin-hirayama

男性の不満⑥ 「彼女はどうしていつまでも泣いているんだろう…また来月がんばるしかないじゃん。落ち込んでる彼女は見たくない…」

 不妊治療の負担そのものは女性の方が重いことがほとんどですから、うまくいかないときのつらさも女性が重く感じるのはある意味当然のことかもしれません。でも自分のつらさを男性に理解してもらえていないと感じて悲しくなる女性がとても多いことはとても残念です。お二人に知っておいてほしいのは、二人にとって、生理が来る、妊娠判定が陰性などで妊娠しなかったということは、「望んでいた赤ちゃんを失う」ことなのだということです。ですから、お子さんを失った親が感じるようなつらさや悲しみを感じることは、おかしいことではありません。心理学や精神医学では大切な人や物を失うことを「喪失体験」と呼びます。人は喪失を経験すると、悲嘆(グリーフ)という”悲しみ”の過程を経て、次第に失った人がいない世界でまた生きていけるようになります。このときに大切なのが、「喪失を悲しむ」ことです。喪失の悲嘆は時に激しく、絶望を感じるものでもありますから、自分が、あるいはパートナーがうつ病になってしまったのでは、とか、精神的におかしくなってしまったのではないかと思うこともあるくらいです。でも、基本的な考え方として、「悲しい時に悲しむ」ことができるのはむしろ健全であることと知っておいてください。そしてむしろ悲しむべきに悲しめないときに人は精神的な調子を崩すことにつながるのだということも。ただし、悲しみの表現の仕方は人により異なります。落ち込み、引きこもり、怒りやイライラも悲しみの表現の一つである場合がありますし、感情だけでなく、身体症状や認知機能(物事の理解の仕方)に悲しみの影響が出る人もいます。また、表現される悲しみの強さと、その人が感じている悲しみの強さとは必ずしも一致しません。喪失を経験して、何事もなかったようにしている人が悲しみを感じていないということではないので、その人なりに悲しみを表出できる時間と場所が用意されることがとても大切になります。

 パートナー(多くの場合女性)が悲しみに暮れているのを見て、「自分まで一緒になって悲しんでいたら家の中が暗くなってしまう」と自分の悲しみにふたをして相手を励ますパートナー(多くの場合男性)も多くいます。悲しんでいる人にとってはそれがうれしい時もありますが、「悲しんでいる自分が悪いのだから早く立ち直らなければならない」と感じてしまったり、「彼は子どもが欲しくないから悲しくないのだ」などという誤解につながることもあります。“夫婦に起こってしまった悲しいこと”を二人で悲しむ時間を十分にとってもよいのです。そして、悲しんでいる人には「十分に悲しむこと」ができるような環境を整えてあげることができるとその方の助けになります。そしてもちろん、あなた自身の悲しみを無視しないで、自分なりに悲しみに対処することができるようにしましょう。悲しみへの対処は容易にできる人から、専門家の援助が必要な方までいらっしゃいます。専門家を頼る人が弱いわけではありませんし、「時間が解決してくれるだろう」という”時間ぐすり”は必ずしも適切な対処ではない場合も多く、回復を阻害してしまうこともあります。ご自身の悲しみと折り合いをつけるために積極的にカウンセリングなどを利用していただきたいと思います。